2022.09.21
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- 学術界の知恵袋
イオン交換樹脂のアプリケーション
東北大学大学院工学研究科
化学工学専攻反応プロセス工学分野
助教 廣森 浩祐 博士(工学)
イオン交換樹脂は、イオン交換能を利用して、純水の製造、金属・有価物の回収、廃水処理の他にも、脱水剤や触媒としても使用されています。
1)脱水剤としての利用
イオン交換樹脂は、水と非常に高い親和性を持つため、有機溶剤や空気に含まれる水分を樹脂内部に取り込みやすい性質があります。一方、低(非)極性の溶剤は、樹脂内部にほとんど取り込まれないため、この性質を利用して脱水(乾燥)剤としても利用されます。
この性質は、イオン交換樹脂の持つイオン交換基に対して水が強い相互作用、つまり水和性を持つことに起因するためで、高い選択性を示します。また、イオン交換樹脂は、シリカゲルやゼオライトなどの無機系の乾燥剤と比べて、酸・アルカリに対して耐性が高いという特徴があります。
2)触媒としての利用
イオン交換樹脂は、他の分子に、プロトン(H+)を与えたり、奪い取ることで化学反応を促進させる触媒としての機能も持ちます。H型のカチオン交換樹脂は酸触媒として、OH型のアニオン交換樹脂は塩基性の触媒として作用します。
イオン交換樹脂は不溶性のポリマーを母体とするため、一般的な触媒である硫酸や水酸化ナトリウムなどの均相触媒とは異なり、不均相触媒として作用します。そのため、反応終了後の反応液との分離・回収を濾過などで容易に行うことができます。触媒の中和処理が不要なため、回収したイオン交換樹脂は、そのまま再利用することができます。また、イオン交換樹脂を反応器に詰めて、反応液を通すだけで連続的に生成物を得ることができ効率的に反応が行えます。
カチオン交換樹脂を用いた例が多く、アルドール縮合、エステル化、エン反応、アセタール化などの縮合反応や、オレフィンのアルキル化・水和反応などの付加反応、加水分解に利用されています。工業的には、ビスフェノールAやtert-ブチルアルコール、メチルtert-ブチルエーテル(MTBE)、エチルtert-ブチルエーテル(ETBE)などの製造用の触媒として利用されています。一方で、アニオン交換樹脂を用いた例は数少なく、エステル交換やオレフィンのアルキル化・水和反応などの付加反応、エーテルの加水分解などに利用されています。
イオン交換樹脂の触媒能は、溶液中のイオンと交換基のプロトン(あるいは水酸化物イオン)が他のイオンと交換することで劣化します。また、イオン交換樹脂は均相触媒や無機触媒と比べて、耐熱性が低く、特に、アニオン交換樹脂は耐熱性が低いです。これは、60℃以上になるとイオン交換基である第四級アンモニウム基がホフマン分解により脱離してしまうためで、高温条件での使用には注意が必要です。他にも、ラジカルを伴う化学反応の触媒として用いた場合、イオン交換樹脂が分解してしまいます。ラジカルによりイオン交換樹脂のポリマー鎖が切断され、低分子化した断片が水や反応液に溶解し、劣化の原因となります。繰り返し、あるいは連続的に使用するためには、ラジカル性反応物での使用には注意する必要があります。
イオン交換樹脂が触媒する化学反応の中には、前述したようにエステル化やアセタール化など水を副生する反応があります。これらの反応は可逆的なため、反応が平衡状態に達するため反応物を完全に転化することは困難です。そのため、硫酸などの均相触媒を用いた場合、減圧や高温により、副生した水を反応系から除去(留去)したり、脱水剤を添加することで転化率を高めます。これに対し、前述したように、イオン交換樹脂は、非極性溶液中では脱水剤としても働きます。そのため、イオン交換樹脂を触媒とした場合、副生した水はイオン交換基に水和することで反応系から取り除かれ、均相触媒の場合よりも高い転化率で生成物を得られます。
3)担体としての利用
イオン交換樹脂に、機能を持った化学種や酵素を固定化して使用することもあります。特定の金属イオンに対してキレート剤をキレート結合やイオン結合により固定化(収着)することで、選択性の高い吸着剤として利用することができます。また、イオン交換樹脂に酵素をイオン交換的に結合させることで、固定化(不溶化)することができます。酵素触媒は、温和な反応条件で選択性の非常に高い反応が可能なため、固定化酵素を反応器に詰めて使用することで、特異的な反応を効率よく行うことができます。