キレート樹脂

キレート樹脂の特性

カチオン交換樹脂やアニオン交換樹脂の他に、金属イオンとキレートを形成する官能基を導入したキレート樹脂があります。

キレート樹脂は特定の金属イオンと非常に強く結合して錯体を形成するため、特に環境分野において広く利用されています。特に、排水基準に定められているカドミウム、鉛、銅、亜鉛などを含有する重金属排水の処理にキレート樹脂が用いられており、その特徴は以下の通りです。

1. 金属イオンに対して選択吸着性があり、特定の金属イオンを選択的に除去・回収することができます。
2. 塩水精製やめっき液の精製、有害重金属（水銀、銅、亜鉛、カドミウム等）の除去に使用されています。
3. 金や白金、パラジウムなどの貴金属や有価金属の回収に使用されています。

キレートを形成する官能基としては、N, S, O, P 等の電子供与元素を2個以上含まれているもので、N-O系、S-N系、N-N系、O-O系、P-N系などがあります。代表的なキレート樹脂としては、イミノジ酢酸基を有するキレート樹脂など以下の様な種類があります。

官能基	構造	官能基	構造
イミノジ酢酸		チオール
ポリアミン		スルホン酸
１級アミン		ホスホン酸
メチルグルカミン		アミノリン酸（フォスホン基）
アミドキシム		ビスピコリルアミン
イソチオウロニウム（チオ尿素）		セミチオカルバミン酸

官能基	構造
イミノジ酢酸
チオール
ポリアミン
スルホン酸
１級アミン
ホスホン酸
メチルグルカミン
アミノリン酸（フォスホン基）
アミドキシム
ビスピコリルアミン
イソチオウロニウム（チオ尿素）
セミチオカルバミン酸

キレート樹脂の高い選択性

キレート樹脂は、特定の金属イオンに対する選択性がカチオン樹脂やアニオン樹脂と比較して非常に大きいことから、例えば飽和塩化ナトリウム水溶液や高濃度の酸性溶液の様な水溶液中においても、重金属（銅、水銀、鉛、等）やアルカリ土類金属（カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、等）と錯体を形成して吸着し、ｐHが変動しなければ再放出することもほとんどありません。
キレート樹脂の種類により金属イオンに対する選択性が異なるため、対象となる金属種によりキレート樹脂を選定する必要があります。一例を以下に示します。

イミノジ酢酸

Hg²⁺ > Cu²⁺ > Pb²⁺ > Ni²⁺ > Zn²⁺ > Cd²⁺ > Co²⁺ > Fe²⁺ > Be²⁺ > Mn²⁺ > Ca²⁺ > Mg²⁺ > Sr²⁺ >> Na⁺, K⁺

イソチオウロニウム

水銀、金、白金、パラジウムなどの貴金属に高い選択性

メチルグルカミン

ホウ酸に対して高い選択性

キレート樹脂使用時の留意点

キレート樹脂に吸着した金属イオンはカチオン樹脂と同様、塩酸や硫酸などの強酸で溶離し回収し再利用することが出来ますが、使用するキレート樹脂と回収する金属イオン種により最適な薬品の種類や濃度を設定する必要があります。多くの場合、長年の使用経験により設定している部分が大きいです。

• キレートの種類により、金属種の吸着しやすさの序列が異なります。
• 吸着しやすさの序列は、液組成やｐHなどの環境により異なります。
• 再生に使用する酸などの薬品の種類や濃度を選定する必要があります。特に著しく吸着しやすい金属種では、溶離が困難な場合があります。
• 金属イオンの吸着により、著しい体積変化（膨潤）を起こすことがあります。
• 吸着した金属イオンを溶離する際に、金属酸化物の沈着事象が発生する場合があります。