2021.12.01
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- 技術コラム
イオン交換樹脂の物理的強度
●物理的強度の重要性
イオン交換樹脂は、純水の製造や排水処理に広く使用されている直径0.7mm程度の真球のプラスチック球で、指で押しても簡単には壊れることの無い、強く安定した物体です。
通常は金属製やプラスチック製の容器に充填して、そこに液体を通水することで水中に含まれるイオンを吸着します。純水の製造においては、イオン交換容量が消費された時点でカチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂の比重差を利用して逆洗により分離し、カチオン交換樹脂は塩酸などの鉱酸で、アニオン交換樹脂は苛性ソーダなどのアルカリで再生して再利用しています。使用環境にもよりますが、通常は数年間に渡り使用できます。
しかしブルーシートや塩ビの配管が劣化するように、イオン交換樹脂も経年使用と共に徐々に劣化します。特に物理的な強度が低下します。その要因には以下の様なものがあります。
これらの衝撃に耐え得る物理的な強度を持つことが、イオン交換樹脂に要求されることは言うまでもありません。
●物理的強度の評価方法
イオン交換樹脂の物理的強度を測定する方法には、以下の3つが多く用いられています。
- 押潰強度(圧壊強度):Friability
- 外観(真球率、クラック・破砕率):Whole and uncracked beads
- 球形率:Sphericity
加圧による耐久性を評価する方法が押潰強度(圧壊強度)です。これは、イオン交換樹脂一粒に荷重をかけ、割れた時点の荷重を測定するものです。イオン交換樹脂一粒を圧壊強度測定器の測定ステージにセットし、荷重を徐々にかけていくと、ある強度の時点で樹脂が破壊されます。イオン交換樹脂に亀裂が入っていたり、ひずみがあると小さい荷重で壊れてしまいます。そのため、新品のイオン交換樹脂の製品の管理に用いると共に、装置で使用中のイオン交換樹脂の劣化状況を把握するために測定することがあります。
この強度の測定は、粒ごとの測定値に変動があるため40~60粒に関して測定を行い平均値で評価します。通常の新品イオン交換樹脂の場合、一粒当たり2~5N(200~500g)の耐荷重を有しています。測定する上で注意する点があります。まずは、イオン交換樹脂の粒径をある程度整える(整粒する)必要があります。粒径が大きいほど強度が大きくなるため、平均的な強度を測定するためには、JIS標準篩を用いて600~840μmの大きさに整えるなどの操作を行います。また、イオン交換樹脂粒を測定ステージに置く際、水滴で湿潤状態にしておく必要があります。イオン交換樹脂は乾燥すると見掛け上の強度が強くなりますので、注意が必要です。
外観は、顕微鏡観察により測定する方法です。一例写真を示します。
顕微鏡写真を撮影し、1000~2000粒程度をカウントします。その中でクラックの入っている粒と破砕している粒の数をカウントし、クラック粒と破砕粒の合計からクラック・破砕率を求めます。新品樹脂の場合、5%未満が目安となります。真球率で表現すると95%以上が目安です。長期間使用したイオン交換樹脂は、摩耗や浸透圧により樹脂劣化が進行し、このクラック・破砕率が徐々に増加します。劣化が進行すると樹脂量が目減りしたり処理水質が低下する場合があります。どの程度までクラック破砕率が増加したら樹脂交換を実施するかは経験から判断します。
球形率は、傾斜した金属板の上でイオン交換樹脂を転がして落下させ、球形率を求めます。半球の粒や不定形の粒は滑り落ちずに残るので、滑り落ちた樹脂の量を測定して球形率として算出します。この方法は完全球のみを測定することが出来るわけではないので、現在では顕微鏡観察による真球率で評価することが多いです。
●加速劣化試験
実装置で使用中のイオン交換樹脂について、物理的な劣化がどの程度進行しているかを評価するために、前述のような方法で強度を測定します。
一方、実装置で使用する前に安定なイオン交換樹脂を選定する目的で、実際の使用条件を模擬した加速劣化試験を行う場合があります。この加速方法には、以下の様な方法があります。
- 耐磨耗性:移送試験、ボールミル試験
- 耐浸透圧性:サイクル試験
移送試験は、樹脂同士の磨耗や樹脂と配管の衝突を模擬して、樹脂と水のスラリーを図のような装置を用いて循環した後、強度や外観を調査するものです。樹脂同士が衝突することに加え、金属製のロートに衝突することで樹脂に対する衝撃が加わります。これを行うことで磨耗に対する物理的耐久性を評価します。一般的にはゲル型樹脂は磨耗に強く、ポーラス型樹脂は磨耗に弱いと言われています。但し、銘柄によりその特性は異なります。
ボールミル試験は、汎用的なボールミル試験装置にイオン交換樹脂と水のスラリーを充填し、そこに金属製や陶器製のボールを入れて所定時間回転させた後に、外観や強度などを測定することで、耐磨耗性を評価するものです。移送試験と比べて過酷な環境での試験となりますので、実装置においても過酷な使用条件でイオン交換樹脂を用いる場合に評価することがあります。
浸透圧試験は、サイクル試験とも呼ばれる試験方法で、浸透圧による体積変化をイオン交換樹脂に繰り返し負荷して物理強度の変化を見るものです。「イオン負荷→純水洗浄→再生→純水洗浄」を1サイクルとして、25~100サイクル程度繰り返した後、外観や強度などを測定するものです。
塩水や再生薬品と接触すると浸透圧により樹脂体積は収縮し、純水で洗浄すると樹脂体積が膨潤します。これを繰り返し行い強度や外観の測定を行うことで浸透圧に対する物理的耐久性を評価します。一般的にはポーラス型樹脂は浸透圧に強く、ゲル型樹脂は浸透圧に弱いと言われています。但し、銘柄によりその特性は異なります。
以上の様な特性を把握した上で、使用するイオン交換樹脂の種類や銘柄を選定する必要があります。また、使用することによりイオン交換樹脂は徐々に劣化しますので、長期間使用する場合には定期的にイオン交換樹脂をサンプリングして物性を確認することが望ましいと言えます。