イオン交換樹脂は内部に移動可能なイオンを持っていて、カチオン交換樹脂は+イオン、アニオン交換樹脂は-イオンです。これが水に接触すると、水中に含まれるイオンと交換することで「イオン交換反応」が起こります。イオン交換樹脂の母体を有機物全般を示すRとして、+イオンをA+とB+、-イオンをC-とD-とすると、イオン交換反応は次のように書くことが出来ます。
A+ + R-B+ ⇆ B+ + R-A+
C- + R+D- ⇆ D- + R+C-
このイオン交換反応を活用し、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂を混合したイオン交換樹脂層に水を通水することで、カチオン交換樹脂が+イオンであるナトリウムイオンなどを吸着してH+イオンを放出し、アニオン交換樹脂が-イオンである塩化物イオンなどを吸着してOH-イオンを放出します。このH+イオンとOH-イオンが結合して水になり、結果として純度の高い水(純水)を得ることが出来ます。
このイオン交換反応は可逆反応で両方の反応が可能となり、この特性を利用して再生が行われ、再利用可能な状態となります。しかしこの特性が、処理水質を低下させる原因となる場合があります。
新品のイオン交換樹脂には、極微量ですが製造時に由来する金属不純物が含まれています。再生や洗浄などの操作を行い不純物を低減していますが、ゼロには出来ません。すると、この残留する金属が水中に放出される事象が発生する場合があります。超純水や高純度の薬品を製造するには、この不純物が影響する場合があります。
イオン交換樹脂は有機物であるため、製造過程で残留する有機物が洗浄しきれずに使用時に水中に放出される場合があります。これらはいずれも水質に影響し、特に新品樹脂を純水装置などに使用する場合の装置の立ち上がりに時間を要するなどの影響が出る恐れがあります。
このイオン交換樹脂は、新品イオン交換樹脂中に含まれる金属不純物や、残留する有機物を大幅に低減しています。純水や薬品、有機溶剤、プロセス液の製造・精製に適応しています。カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂、及びこれら混合品のラインアップがあります。標準的な物性の規格値と、純水系で使用時の立ち上がり水質、金属含有量などは以下の通りです。
項目 | HGシリーズ | |||
---|---|---|---|---|
混床イオン交換樹脂 XSM-N411 HG | カチオン交換樹脂 | アニオン交換樹脂 | ||
カチオン交換樹脂 | アニオン交換樹脂 | XSC-1415 HG | XSA-2415 HG | |
総交換容量(eq/L-R) | 2.1以上 | 1.2以上 | 2.1以上 | 1.2以上 |
平均粒径(mm) | 0.55〜0.65 | 0.59〜0.69 | 0.55〜0.69 | 0.59〜0.69 |
均一係数 | 1.1以下 | 1.1以下 | 1.1以下 | 1.1以下 |
TOC(ppb) | 30以下 | 50以下 | 30以下 | |
比抵抗(MΩ・cm) | 18.0以上 | 10以上 | 10以上 | |
市販時イオン形 | H形 | OH形 | H形 | OH形 |
上記の表は横にスクロールしてご覧ください。
項目 | カチオン交換樹脂 | アニオン交換樹脂 | |
---|---|---|---|
XSC-1415 HG | XSA-2415 HG | ||
水分含有率(%) | 45-50 | 55-65 | |
樹脂中の 金属含有率 (mg/L-樹脂) |
Al | 10未満 | 30未満 |
Ca、Na | 30未満 | 10未満 | |
Cd、Co、Cr、Cu,K、Li、 Mg、Ni、Pb、Ti、Zn |
10未満 | 10未満 | |
Fe | 30未満 | 30未満 |
上記の表は横にスクロールしてご覧ください。
また、クエン酸などの有機酸類やメタノールなどのアルコール類、PGMEなどの有機溶剤に対しても有効です。有機溶剤:PGMEの高純度化評価結果は以下の通りです。
分析項目 | 原液 | 処理液 |
---|---|---|
Al | 154 | 0.5 |
Ca | 146 | 0.2 |
Co | 118 | < 0.1 |
Cr | 124 | 2.5 |
Cu | 129 | < 0.1 |
Fe | 103 | 0.6 |
K | 150 | < 0.1 |
Li | 157 | < 0.1 |
Mg | 156 | 0.2 |
Na | 281 | < 0.1 |
Ni | 119 | < 0.1 |
Zn | 118 | < 0.1 |
(単位:μg/l)
イオン交換樹脂は、水中に存在するイオンなどの不純物を除去してきれいな純水を長期間に渡り製造することが出来ます。しかし、長期間に渡り使用し続けると、プラスチックが光を長期間浴びることでボロボロになるように、イオン交換樹脂も使用と共に徐々に劣化します。特にカチオン交換樹脂は、吸着・捕捉した金属イオンが触媒として働いて酸化劣化を引き起こします。この反応は、以下のように起こると言われています。
このような反応が起きると、カチオン交換樹脂の性能が劣化して微量の有機物が溶出することになります。これは処理水質の低下事象を引き起こすとともに、イオン交換樹脂を全量交換する要因となります。
これを解決するために開発されたのが「高架橋度低溶出カチオン交換樹脂:ULシリーズ」になります。このカチオン交換樹脂は、従来のものより架橋度を高めることで以下の様な性能を有するものです。
有機物の溶出挙動を評価した結果を以下に示します。高架橋度低溶出カチオン交換樹脂は、脱塩装置で使用されている汎用樹脂より有機物の溶出が少ないことが分かります。
※高グレード低溶出樹脂は、開発品になります。
また、イオン交換容量を評価した結果を以下に示します。高架橋度低溶出カチオン交換樹脂は、脱塩装置で使用されている汎用樹脂より交換容量が約20%大きいことが分かります。
これらの観点で、「高架橋度低溶出カチオン交換樹脂:ULシリーズ」を適用することにより、水質を良好に保ちつつ樹脂寿命の延長が期待できると言えます。この高架橋度カチオン樹脂の物性例を以下に示します。
項目 | 標準グレード | 高グレード(開発品) | |
---|---|---|---|
市販イオン形 | Na、H | Na、H | |
基本物性 | 総交換容量(eq/L-R) | ≧2.5 | ≧2.5 |
水分含有率(% - Na型) | 28-34 | 28-34 | |
球形率(%) | ≧95 | ≧98 | |
無亀裂率(%) | - | ≧95 | |
見掛密度(g/ml) | 0.85-0.95 | 0.85-0.95 | |
真比重(g/ml) | 1.30-1.40 | 1.30-1.40 | |
粒度 | 粒度0.315-1.25mm(%) | ≧95 | ≧95 |
均一系数 | ≦1.6 | ≦1.4 | |
有効粒径(mm) | 0.40-0.70 | 0.40-0.70 | |
押し潰し強度 | 平均強度(g/ビーズ) | - | ≧350 |
<200g/ビーズ(%) | - | ≦5 | |
耐酸化性 | 低分子PPS(mg/L-R) | - | 低分子PPS(mg/L-R) |
<200g/ビーズ(%) | - | ≦5 | |
耐酸化性 | 低分子PPS(mg/L-R) | - | ≦300 |
高分子PPS(mg/L-R) | - | ≦5 | |
繰り返し再生強度 | 100サイクル後 破砕・クラック率(%) |
- | ≦2 |
上記の表は横にスクロールしてご覧ください。
高架橋度カチオン樹脂は、以下の様な適用先が想定されます。
もちろん、一般の純水装置で使用しても、水質の高純度維持や長寿命化に有効です。
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