イオン交換樹脂の用途(その歴史)

イオン交換樹脂の創成

1930年代になると、フェノールやホルマリン系の重合物が、陽イオンや陰イオンを交換・吸着することが発見され、イオン交換樹脂として工業的に製造されるようになり、1940年代には現在と同じスチレン系の重合物によるイオン交換樹脂が工業的に合成されました。
このころは所謂第二次世界大戦の真っただ中でありました。当時の船は蒸気ボイラ駆動であり、硬度成分による影響を軽減して長期間に渡りボイラ(戦艦や輸送艦と言った方が良いかもしれない)を安定的に運転するため、使用する水を浄化するイオン交換樹脂が必要となったことが、開発が進んだ一つの理由であると言われています。欧米は勿論、日本国内においても工業化が研究開発されていました。また、ウランなどの同位体元素の分離などにもイオン交換樹脂が使用されていました。

原子番号61のプロメチウム

原子番号61のプロメチウムという元素名は、ギリシャ神話に登場する火の神プロメテウスに因んでいます。プロメチウムは天然には存在していない元素で、ウランの核分裂生成物からイオン交換樹脂を用いて分離したもので、イオン交換はウランを使用する原子爆弾開発の一端を担っていた技術でもあります。

イオン交換樹脂の応用

第二次世界対戦後、高度成長と共にイオン交換樹脂も広く使用されることとなります。純水の製造は勿論、硬水の軟水化、ボイラー用水の浄化、砂糖・柑橘系飲料・アルコール類の精製など、液体中に存在する物質の分離・精製技術として広く用いられるようになっています。ボイラー用水の浄化に関しては、火力発電所や原子力発電所などで使用される水の浄化に広く用いられ、発電所1基で10万ℓ以上という大量のイオン交換樹脂が使用されています。イオン交換樹脂の使用量としては、もっとも多い業界の一つです。工業用では他にも、色々な用途で使用されています。

半導体産業

メモリーやCPUなどの半導体産業では、非常に不純物の少ない清浄なイオン交換樹脂を用い、その他の技術と組み合わせて非常に純度の高い「超純水」が製造されています。パソコンやスマホの製造に、超純水は欠かせない技術です。

医薬品の精製や、貴金属の回収

更に医薬品の精製や、金鉱石や都市鉱山からの貴金属の回収などにも使用されています。ここでは医薬品や貴金属のみを選択的に回収できる特殊なイオン交換樹脂が使用されています。このようにイオン交換樹脂は私たちが生活する上で欠くことのできない製品であると言えます。

科学設備

日本が世界に誇る科学設備である「スーパーカミオカンデ」では、大量の超純水が使用されています。

スーパーカミオカンデ

神岡鉱山周辺には極めてきれいな地下水が豊富にありますが、ニュートリノの検出には極めてきれいな水が必要とされています。特に、温泉に含まれる物質として有名な「ラドン」や「ラジウム」はニュートリノの検出に深刻な不純物となるためこれを高度に浄化する必要があり、そのためにイオン交換樹脂を含む様々な浄化装置が設置されています。この研究により、小柴先生や梶田先生がノーベル賞を受賞したことは周知の通りであり、イオン交換樹脂の技術が一役を担っています。現在、更にスーパーカミオカンデの8.4倍もの大きさの、巨大なハイパーカミオカンデが作られており、ここでも超純水が用いられる計画です。
(スーパーカミオカンデ、公式ホームページより)

身近に使用されているイオン交換樹脂

一方、身近なところでもイオン交換樹脂の技術が使用されています。

軟水

硬度の高い水道水ではなく軟水を用いることで、石鹸の泡立ちが良くなることや髪の毛をサラサラにすると言われています。また、煮物には軟水を用いることで染み込みが良くなるなど、和食には軟水が向いていると言われています。軟水の製造にはイオン交換樹脂が充填された軟水器が用いられるため、シャワーや洗濯機、飲料用などで飲食店や美容院、家庭に設置する場合もあります。洗車機用にもイオン交換樹脂で浄化した軟水や純水が用いることがあります。硬度成分がガラスやボディーに付着することを防ぐために軟水を使用したり、バッテリーの補充液として純水を使用するためです。

アルコール類

アルコール類の精製にもイオン交換樹脂が用いられています。これは発酵過程で生成する二日酔いの原因となるアルデヒドを除去するためや、着色成分を除去して無色透明にするためにイオン交換樹脂が用いられています。美味しく、きれいなアルコール飲料の提供に役立っています。

研究施設

大学など研究を行う施設では、純水装置が欠かせません。色々な水中に含まれる物質の濃度を分析するには、不純物の少ない純水が必要です。分析に必要なガラス容器の洗浄に水道水を使用すると、水道水中に含まれる不純物が混入してしまい、正しい値を得ることが出来なくなります。従って、きれいな水である純水は必要であり、その純水を製造するためにイオン交換樹脂が必要です。研究機関には、きれいな水を供給する純水製造装置や、更にきれいな水を供給する「超純水製造装置」が必ずあります。

「純水」と「超純水」

水道水は見た目には非常にきれいな水ですが、飲んでも問題のない物質や消毒のために必要な物質が含まれていて、50mプールの水に例として角砂糖が100万個程度入っている計算になります(この程度の量では、全く甘くありません)。イオン交換樹脂などで浄化された「純水」では、50mプールの水に角砂糖1個程度の純度になります。更に、スーパーカミオカンデで用いられているような「超純水」の場合、東京ドームに米粒1つ程度が入っているような、全く見つけることのできない程度のきれいなものになっています。

以上のように、家庭から大学などの研究機関、食品工場から発電所まで、
イオン交換樹脂は幅広い分野で使用されている、私たちにとって非常に重要な製品です。

イオン交換樹脂についてもっと知る

イオン交換樹脂とは(正体)

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