私たちの身の回りは、水に満ち溢れています。雨が降り、川に流れ、海に注ぎ、蒸発して雲に(特に台風として)なり、再び雨として地に注ぎ循環しています。
また、蛇口をひねると水道水が注ぎ、日常飲用水や料理に活用しています。水は私たち人類にとって無くてはならない物質です。
水は、水素原子2個と酸素原子1個が結合した「H2O」という物質ですが、目にする水には、実は色々な物質が含まれています。海水中には、食塩(塩化ナトリウム)が1ℓあたり30g程度含まれていることは、舐めるとしょっぱいことからよく知られていることです。一方、きれいに見える水道水でも、1ℓあたり1gより少ない量ですが水以外の飲んでも安全な不純物が含まれています。存在しているのは、一般によく見かける「硬度成分」と言われるカルシウムやマグネシウムを含む物質で、ヨーロッパ産のミネラルウォーターは硬度が高く(量が多い)、日本産のミネラルウオーターの硬度は低く(量が少ない)、概ねヨーロッパの1/3程度です。
このように、見た目にはきれいに見える水道水ですが、工業的に使用する時に問題となる場合があります。やかんで水道水からお湯を沸かすといつの間にか白い湯垢が付着しますが、これは水中のカルシウムやマグネシウムなどの硬度成分が付着したものです。工業的に大量のお湯を製造するものとしてボイラーがあり、湯垢が大量に付着すると削り取らなければなりません。また、海水には大量の食塩が含まれているため、このままでは飲むことは出来ず、飲用とするためには、食塩などの成分を除去しなくてはいけません。最近では、ネット販売サイトを検索すると「純水」と書かれた不純物の少ないきれいな水が販売されていて様々な用途に使用されています(コンタクトレンズ洗浄用、バッテリー補充液)。
この水中に含まれる食塩や硬度成分の除去に用いられているのが、「イオン交換樹脂」と呼ばれる工業製品です。食塩は、プラスの電気を持つナトリウムイオンと、マイナスの電気を持つ塩化物イオンからなる物質で、水に溶けるとバラバラの状態で存在しています。水に溶ける多くの物質は同じような状態となっていて、プラスのイオンとマイナスのイオンが存在しています。ここにプラスのイオンを吸着するカチオン交換樹脂と、マイナスのイオンを吸着するアニオン交換樹脂を投入すると、水中のイオンを吸着して不純物の少ない「純水」が出来上がります。
水中にはプラスに帯電したナトリウムなどの+イオンと、マイナスに帯電した塩素などの-イオンが存在します。+イオンを吸着する陽イオン交換樹脂と、-イオンを吸着する陰イオン交換樹脂がそれぞれ働き、最終的にイオンをほとんど含まないきれいな水:純水が出来上がります。
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一般には見かけることのほとんどないイオン交換樹脂ですが、工業的には非常に幅広く使用されており、私たちは多大な恩恵を受けています。工業的に使用する純水はもちろん、電子材料で使用する金属の分離、工場排水からの有害物質の除去、医薬品の分離精製などに使用されています。更に、日常的に利用している砂糖やジュース類、アルコール飲料の精製や、火力発電所の水の浄化などに大量に使用されており、イオン交換樹脂は生活する上で必要不可欠なものとなっています。
イオン交換技術が工業的に広く利用され始めたのは、19世紀半ばの土壌改良技術です。イオン交換事象を認識はしておらず、ギリシャ時代より農業分野において「イオン交換」技術が利用されていました。炭や草木灰、肥料を土に撒くことで農業に活用されていて、一種のイオン交換反応が起きています。日本においても、平安時代には肥料を撒いていた記録が残っています。植物の育成に必要な窒素を土壌が供給する役割を果たしています。19世紀半ばには、リン肥料や硫安などの化学肥料が工場で合成されるようになり、これを土壌に撒くことで、例えばアンモニウムイオンが土壌中のカルシウムイオンとイオン交換することで土壌に保持され、徐々に植物に栄養成分として吸収されて肥料として働いていることから、イオン交換事象を利用していると言えます。日本においても明治時代に化学肥料が輸入され、その技術が急速に広まっていきました。
この自然現象を解明し、20世紀初めに無機物質であるケイ素とアルミニウムの複合酸化物である「ゼオライト」が合成され、肥料を効果的に生かすとともに「イオン交換反応」を化学的に解明することとなりました。その後、1930年代に有機合成によるイオン交換樹脂が工業的に製造されるようになり、現在に至っています。
イオン交換樹脂は、プラスチックや化学繊維と同じく石油由来の有機合成物質で、直径が0.5㎜程度の半透明の非常にきれいな真球の物質です。外観は、魚卵であるタラコの様な、ガラス状の物質です。日常的に見かけることはありませんが、様々な用途で工業を支えている非常に重要な化学物質です。
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